大判例

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和歌山家庭裁判所 昭和50年(少)2175号 決定

少年 H・J(昭三一・二・一四生)

主文

少年を中等少年院に送致する。

理由

一  罪となるべき事実

少年は

(1)  公安委員会の運転免許を受けないで、昭和五〇年三月一九日午後九時ころ、和歌山市○○○○所在「○○自動車」付近道路において、自動二輪車(和歌山市○××××号)を運転し

(2)(イ)  公安委員会の運転免許を受けないで、昭和五〇年四月一九日午後八時四五分ころ、和歌山市○○町×番地先交差点において、自動二輪車(和歌山市○××××号)を運転し

(ロ)  同日時場所において、自動車損害賠償責任保険の契約が締結されていない自動二輪車(同上)を運行の用に供し

(ハ)  自動車運転の業務に従事する者であるが、同日時場所において自動二輪車(同上)にH・T子(当一七歳)を同乗させて信号機により交通整理の行われている前記交差点を信号に従い時速約五〇キロメートルの速度で北から南に通過するに際し、運転者としては対向右折車の有無およびその動静を注視し、適切なハンドル、ブレーキ等の操作を行つて事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務があるのにこれを怠り、対向右折しようとしている○岡○司運転の普通乗用自動車(○××○××××号)を認めながら、自車の通過を待つてくれるものと軽信し、漫然と前記速度のまま進行を継続した過失により、自車前部を前記乗用車前部に衝突させ、よつてH・T子に対し骨盤骨折等の加療約三週間を要する傷害を負わせ

たものである。

二  適用法令

(1)および(2)(イ)につき道路交通法六四条、一一八条一項一号

(2)(ロ)につき自動車損害賠償保障法五条、八七条一号

(2)(ハ)につき刑法二一一条前段、罰金等臨時措置法三条一項一号

三  処遇理由

本件少年調査記録中の少年調査票(家庭裁判所調査官塩路靖三作成)意見欄記載のとおりである。少年は過去に普通乗用車の無免許運転により不処分決定を、普通乗用車の速度違反により当庁における一日講習を受講したうえ不処分決定をそれぞれ受けているが、本年一月一三日には二件の業務上過失傷害罪により検察官送致のうえ罰金刑に処せられ、同月二三日に普通免許取消の行政処分を受けたにもかかわらず、右行政処分の直後に友人から本件自動二輪車を買受け、無免許運転を行つていたものであり、その情状はきわめて悪質である。また、少年は本件第三回審判期日において輪姦の事実を自供したが、これは本件第一回審判期日(昭和五〇年五月二二日)において少年を少年鑑別所に送致ずる旨告知したところ、少年および保護者が少年の将来の仕事のため是非ともガス熔接の試験を受験する必要があり、その受験日が間近に迫つている旨申立てたので、右申立を容れ、第二回審判期日において送致決定をすることとし、当日は少年を帰宅させたところ、その直後である五月二三日ないし二四日に敢行したものであつて、少年の生活態度については、最低限の倫理性をも疑わざるを得ない。

以上のとおり、少年には道路交通関係のみならず、一般非行性についても矯正措置が必要と考えられるが、前記少年調査票記載のとおり家庭の監護能力に期待することができない以上、収容措置はやむを得ない。

よつて、少年法二四条一項三号、少年審判規則三七条一項を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 野崎弥純)

参考一 少年H・J少年調査票

昭和50年少第4570号

交通違反調査票(C)

氏名

H・J <男> 女

昭和31年2月14日生(19年2月)

住居

電話( )

意見

本件は少年法(17条観護措置)の決定を相当と思料する。

理由

少年は前件2件の業過傷で50.1.23免許取消となり、3月19日に本件を犯し、さらに4月19日、無免許で単車を運転し事故を起している。

少年の違反歴等から考え、鑑別所において心身の鑑別を行う必要がある。

なお余罪については至急送致するよう西署に依頼しておいた。

以上

昭和50年5月2日

和歌山家庭裁判所 調査官 塩路靖三 印

少年調査票〈省略〉

鑑別結果通知書〈省略〉

参考二 少年H・J作成の抗告申立書

抗告の理由

私は、今までに数々の道路交通事故おこし、その損害賠償金は、みなはらつております。今までの無免許運転での事故の損害賠償金も、はらつています。

私は、昭和五十年五月二十九日に和歌山家庭裁判所に行きその道路交通事故について私は、和歌山少年鑑別所へ行き、今までの数々の事故を思い出し鑑別所で二週間のたんどく生活をつづけてはんせいしてきました。それにこんどから、社会に出たら真面目な人間になり父や弟にしんぱいをかけずにやつて行くと心にきめていました。それから鑑別所での二週間がすぎた、昭和五十年六月十日に和歌山家庭裁判所に行き私は、こんどどのような処分をうけるのかなと思い裁判官の話しを聞いていました。

初めは、道路交通法の事で話しをしていました。すると、裁判官は、私に君は五月の二十二日から五月二十九日までに女の子に乱暴をしましたねと、言われ私は、はいとへんじをしました。それから裁判官は話しもせず、少したつてから考えて私に君は道路交通事故をしていながらしかも女の子に乱暴した。それに君はもう父親からは見はなされているから君は、中等少年院に行つて、今ままでの事をよく考えて、はんせいしなさいと言つた。

その時私は女の子を乱暴したのと通路交通法で中等少年院に行くのだなと思いながら奈良少年院にきました。そして私は少年院の先生に聞いて見ると、私は道路交通法で来ていて女の子の乱暴した話は別の話しでは有りませんか、私はそれを聞いてこの抗告書を出しました。

もし私が道路交通法でここへ来ているのならあまりにこの処分は重いのでは有りませんか。事故の損害賠償金は入つているのにそれに私が女の事件でここへ来ているなら、あとの三人の処分は、どのようになつているのですか。

裁判官は、あとの三人の事も考えているのですか、それにもし女の事件で私がここへ入る事になると、私一人でここへ入るのは少しおかしいのでは有りませんかあとの三人も少年院へ入るべきだと思います。

それに私はあの時、鑑別所から出てしんぱんをうけて道路交通法でまさか少年院などへ入るとは思つてもみませんでした。

もし裁判官が私を女の事で少年院へおくつたならあとの三人も少年院へ入るべきだと思います。三人が少年院へ入らなければ、私はいつまでもこんなところにおりたくはありません。

家に帰えれば、父や弟と仕事をして、まじめな生活をおくろうと思つていました。

今は家の中では、みじめな生活で、その生活を私は早くゆうがな、楽しい生活にしてゆこうと思つていました。

それに私が今ままで数々の事故でお金を使い家の中はくるしい生活がつづいています。

そして私は、これからの生活を一つのもくひようにして社会にむかつて、親子四人楽しい生活をつづけて行けると思つていました。

でも、もう今の私にはなにももくひようにむかつてすすむものは有りません。

今は、奈良少年院へ入院しているので、父と弟は、生活にくるしんでいるでしよう。

それに私が一年少しの入院処分について、私は、あまり重いのでは、有りませんか、いや私は重いと思います。

以上、抗告の理由を申し述べましたが、どうか真意をおくみとりの上、調査して下さい。

参考四 少年H・J作成の再抗告申立書

再抗告の趣旨

一 抗告棄却の理由のうち審判を受けている間に友人とともに一五歳の少女を輪姦する所業をなしていることが、それぞれ認められるについては、私自身輪姦など認めた覚えは有りません。それに文中に友人とともにと書いて有りましたが、私にはだれだかも分りません。もしその人達がそのようなことをして認めているなら、文中に書いて有るとおり、私と同じ罪になると思います。いや、なるでしよう。その人達も罪を償うため、なにか処分を受けたでしようか。輪姦と言うこと事態私にはなんの関係も無いことです。それに文中には、それぞれ認められると書いて有りますが、それぞれとは、ある人が認めていると言うことと思います。その人達が認めていても私には、なに一つ認めた覚えは無いし輪姦と言うこと事態私には分りません。ですから、そのことに、ついてもう少し調査して見てください。

二 抗告棄却の理由のうち、再び非行を累行する危険性は強いものといわざるをえないについて、私は父のもとで仕事をやり真面目に生活していたと思います。鑑別所に入院する前までは、父の仕事を手伝い、自分なりに一生懸命にやつて生活していたと思います。それに、家庭内について、少し苦しい生活が続いていたので、私自身心を入れなおし真面目に生活して、なんとか父や弟に楽な生活をおくつてもらおうと頑張つていました。すると私が裁判所に呼出を受け鑑別所に入院ときまつた時、私はもう真面目に生活して行く気もなくしました。自分は、やと真面目な生活を送つて行こうと頑張つていたのに、そのようなことになると、だれでもいやな気持になると思います。そして裁判官、あなたは、再び非行を累行するといつてますが、もしあの時私が鑑別所から出て生活していれば、矯正な道へと真面目な生活を送つていたでしよう。今少年院で生活していると、私は前と違つた気持で生活しています。私が今少年院まで来て一年と言う長い間ただ色々な教育を身につけ生活しているだけです。もしその一年が社会での生活であれば父や弟と一所に暮しらくな生活ができ楽しい毎日を過していたでしよう。いまさら、このようなことを言てもしかたがないでしようが、でも私はこの中等少年院を一年で退院することによつて私の性格、考え方も違つてくると思います。そして私は未だに、中等少年院と決めた裁判官を私は恨んでいます。

三 抗告棄却の理由のうち保護者である少年の実父は粗野で道徳性が低く、少年に対する監護能力を期待できないことを勘案すると言うことについては、監護能力を期待できないと言うことは、私は父から見放されていると言うことと同じことと思います。しかし父には、十分私を監護する力は有りました。ですから私は鑑別所へ入る前に父から何度もしかられ注意され、私は心を入れなおし父の仕事を手伝い一生懸命にやり父や弟に迷惑をかけず、生活して行こうと、自分なりに矯正なる道へと進んで行こうと頑張つていた私です。なのに父には監護能力が無いなどとは間違つています。父は私を矯正な道へと生活して行くように努力していました。ですから私は父の言う事をきき裁判所に呼び出を受けるまでは、真面目にやろうと、家にとじこもり仕事一つに力を入れて私は毎日を過そうとしていました。今の父には、十分私を監護する力又は道徳性など低いことは有りません。その点をも一度よく調査して下さい。

四 抗告棄却の理由のうち私は道路交通法でも各非行を起しています。もし右の理由が認められれば、道路交通法として別つな処分が、あると思います。今私はこのような罪を背負いながら、これからの長い中等少年院での生活、私は、不満をつくづく考えながら生活して行かなければなりません。ですから、道路交通法での処分は半年でも受けます。でも右記の一について輪姦などした覚えがありません。

昭和五十年六月十日に私は、和歌山家庭裁判所において審判を受けました。すると私の父に裁判所がわで、審判日の連絡が行つておらず父は審判に来られませんでした。そして審判は、そのまま続行したのです。すると裁判官が言うのには、父が審判に来なかつたので、私は父に見離されたと言うことで、各非行と合わせ、私を中等少年院となつてしまつたのです。私自身、父に見離されたのでは無く、裁判所の方に落度があつたので、裁判官は、そんなこととはしらず各非行と同じ処分にされては困ります。

この件について父に聞いてもらえばわかると思います。

右の理由により、原決定および抗告棄却の決定は、正当な理由ではなく、私が少年院に収容されていることは、日本国憲法第三四条(拘禁に対する保障)に違反しているので、再抗告による再審査をお願いいたします。

編注 再抗告審決定(最高 昭五〇(し)九一号 昭五〇・一一・一二第一小 棄却決定)

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